ミャンマーにおける中国の複雑な駆け引き
ミャンマーについて数十年にわたり取材を続けてきたベテラン作家でジャーナリストであるベルティルリントナー氏。このインタビューでは、ミャンマーでの中国の目標と戦略、国民民主連盟や民族武装集団との関係を含むアウンサンスーチー氏の今後の動向、国内で展開する軍による支配の終結に向けた最も可能性の高いシナリオなどについて、イラワジ編集長アウンゾー氏との対談である。
アウンゾー氏:
対談が長丁場になってしまうかもしれませんが、これまでに和平プロセスや民族国家、民族軍EAO(民族武装組織)などを取り上げてきました。次に、ミャンマーの強力な隣国である中国についてお話をお伺いできればと思います。
我々は、幾度となくミャンマーの内政や内紛における中国の役割、ミャンマーの内政に対する中国による干渉、さらには中国の地政学的野心やインド洋への海洋進出について議論を重ねてきました。
ベルティルリントナー氏:
まず中国の地図を見ると、内陸部にある巨大な帝国ではありますが、これほどの大国にしては比較的短い海岸線しか有していません。また、中国は社会主義から資本主義へと経済システムの転換を図りましたが、その発展モデルになったのは、輸出でした。
輸出産業を発展させ、国の所得向上などにより生活水準を上げることを目指してきました。
沿岸部には当然港がありますから、すぐに輸出が開始され、生産が行われていました。これは、広東省、福建省、そして後に上海も同様に展開されていきますが、一方で、内陸地方はというと、遅れを取っていました。沿岸部の地方と内陸部の地方との収入格差は、国全体の統一を脅かすほど深刻度は増していきました。中国というのは、巨大であり、また大陸であるため、国以上の存在であり、また多くの民族もいます。1980年代に入り、中国政府は、内陸部において輸出中心の開発の可能性を模索し始め、
1985年の機関誌『北京論壇』にもこの内容が掲載されました。
アウンゾー氏:
私もそれを読んだことがあります。
ベルティルリントナー氏:
四川省、雲南省、広州市の3省の人口を合わせると1億人にも達しますから、そこで産業を興し、中国国内の港に商品を送るということはあり得ないわけです。そこで他国を経由して輸出する必要があったのです。中国全土を見渡しても同様なことが言えます。中国と国境を接する国の中でマラッカ海峡や南シナ海を迂回してインド洋に直接アクセスでき、中国国内の港からの輸出を促進するよりも容易な国は3か国しかありません。それは、ビルマ、インド、パキスタンです。
ただ中国に協力的ではないインドは、忘れていただいてもいいのですが。
アウンゾー氏:
はい。
ベルティルリントナー氏
パキスタンもそうですね。そこにはカラコルム高速道路がありますが、これは世界で最も危険な高速道路の1つでもあるんです。もちろん、パキスタンの政治的な混乱もあり、とても恐ろしいことではありますが。とは言うものの、中国にとってインド洋に容易かつ便利に巡航可能な国といのは、1つしか実は存在ないのです。
アウンゾー氏:
ミャンマーですね。
ベルティルリントナー氏
はい、そうです。したがって中国は、ミャンマーには他国にはない長期的な戦略的利益を有しているのです。欧米諸国が人権や民主主義について語るのは良いことですが、ミャンマーで起きていることには実質的な影響は何ら及ぼさないでしょう。
インドももちろん中国の影響力を懸念していますが、これまでのところ、それに対して上手く対処してはいません。一方で中国は、ミャンマーとの関係を発展させるための努力を急ピッチで推し進めています。アウンサンスーチー氏が国家顧問に就任した際にも、中国大使館は真っ先にスーチー氏の選挙勝利を祝福しましたが、それは一種の......
アウンゾー氏:
また、スーチー氏は2015年の選挙前にも中国に招待され、習近平国家主席と会談をしました。
ベルティルリントナー氏
私が考えるに、中国人はミャンマーの「安定した」軍事政権を望んでいるのだと思います。
アウンゾー氏:
しかし、弱いと。
ベルティルリントナー氏
はい、さほど強いわけではありません。
アウンゾー氏:
民主主義でもなく。
ベルティルリントナー氏
はい、ミャンマーはそれを好まないでしょう。しかし、アウンサンスーチー氏が国を動かしていなかった時でさえも、国は軍によって動かされていた事実を忘れてはいけません。少なくともスーチー氏は政府を動かしていた訳ですから、中国は、やはりスーチー氏やNLDと非常に緊密で友好的な関係を築こうと努力してきたのです。ただあくまでも私の所見ですが、中国による長期的な戦略的利益を考えるならば、中国はより対処しやすい政府、つまり非民主主義的な政府を好むということです。
中国と様々なEAOの関係も同様です。
アウンゾー氏:
はい、それが次の質問にもつながるのですが、かつて共産主義国家であった中国は、ミャンマーなど近隣諸国に「革命」を輸出していましたよね。しかし今日では、中国は商品を輸出し、近隣諸国と貿易をしたいと考えています。ミャンマーは、「一帯一路構想」の巨大なプロジェクトの一端を担っており、中国-ミャンマー間の経済回廊(CMEC)を有しています。中国とミャンマーは、非常に数多くの巨大プロジェクトの協定に署名しており、シャン州では、いくつかのプロジェクトが始動しています。我々が知る限り、プロジェクト実施に当たり事前調査が行われ、シャン州には多くのEAOや民兵が活動しています。
CMECのプロジェクトの多くは、シャン州、ワ族、コーカン族、TNLA(タアン民族解放軍)、さらにはアラカン軍(AA)などのEAOがいる地域から今後開始されるとみられ、「中国の飛び地」の一部のように見えるこの北部地域に中国は、こうしたグループを支援するために武器を提供しています。ここ5、6年の間で中国によるミャンマーの和平プロセスへの積極的な関与を目の当たりにしていますが、この件についてもう少し詳しく教えてください。中国は信頼できる国なのでしょうか?
ベルティルリントナー氏
そうですね、この質問に対する答えはとても簡単です。彼らがミャンマーの真の平和に関心を持っているかという意味では、信頼性はないでしょう。というのも、その平和は中国にとっては何ら利益にはならないからです。
ワ州の連合軍やコーカンを見てみると、彼らは基本的にCPB(ビルマ共産党)の後継者ですから、彼らは、60年代後半から70年代、そして80年代にかけて中国から多大な支援を受けてきました。その当時、中国は革命を輸出していましたが、
現在は、消費財を輸出しています。
しかし、1989年の反乱をきっかけに、中国が国内での地盤をCPBに譲ることは、浅はかな行為となるでしょう。なぜなら、彼らはそもそも同じ言葉を話すし、ワ族の指導者らの多くも第二言語として中国語を話しますが、CPBの指導者らの間では中国語を話す人はほとんどいません。
ワ族が使用している武器を見てみると、CPBよりも精度が高く重武装化しているのが分かりますが、こうした武器は全て中国から輸入されています。以上を踏まえると、中国のシンクタンクがどんなに否定しても、それに関しては何ら議論の余地もありません。
ただもっと広い視野で考えてみてはどうでしょうか。議論のために、明日、全ての民族が座って「そうだ、私たちはこのような連邦や連合を作りたい」と合意し、協定に署名して、国内ではもう戦闘は無くなり、平和になり、武装集団は全て地元警察かなにかになる、と仮定しましょう。最初に損をするのは誰でしょうか?
それは中国であり、中国はそのような状況には興味はないのです。中国としては、雲南省に数多くの避難民が押し寄せてくるというようなある程度の混乱は避けたとは思いますが、完全な安定にも興味はありません。中国は、自分たちがある程度牛耳ることができるようなある程度の安定を望んでいるのです。それこそが現在の状況です。
アウンゾー氏:
つまり、勢力同士を対立させておきたいとの思惑があると。
ベルティルリントナー氏
はい、もちろんです。彼らが紛争を止めてしまうということは、中国にとって何ら利益になりません。しかし現在は異なります。いつか将来はそうなるかもしれませんが、今日の中国にとっては利益にならないことは確かです。ミャンマーがあまりにも安定してしまうと、支配することができないため、中国は平和に興味があるのではなく、ミャンマーの国が安定してくれるような事に興味があるのです。中国は、多くの国とつながりを持っていますが、非常に中国特有な外交政策も行っています。
政府間の関係や政党間の関係を区別しているため、中国では政党が1つしか存在せず、その政党が政府を支配している国にとっては、非常に不合理なのです。
アウンゾー氏:
今年4月、中国外務省はミャンマーの外相であるワナマウンルイン氏を中国に招待しました。王毅外相は、「状況がどう変わろうとも、中国はミャンマーが主権、独立、領土保全を守り、国情に合った発展路線を模索することを支持する」と表明しました。しかし、裏では中国はどのようにミャンマーの国内勢力を支配しようとしているのか、中国が包囲網をどのように敷くのかを我々は話していました。そして現在、中国はミャンマーに対して領土の完全性を尊重すると公約したのです。
ベルティルリントナー氏
しかし、中国はそのようなことはこれまでに一度も行ってはいません。まず初めに、中国は20年間にわたってCPBを支援してきましたし、国境沿いの特定のEAOとの関係性も保っていました。特にミャンマーの様々な武装集団や組織については、常にミャンマーの国内政治に関与してきた背景があります。
アウンゾー氏:
そうすると、ミャンマー、特にシャン州はどうなるかというと、好むか好まざるかに関わらず、今後10年から20年の間に多くの巨大プロジェクトが始まってくるでしょう。中国人が来て、中国の代理人と言われるワ族までもがシャン州南部に移動してくるといったことが起きるので、かなり懸念されています。タイもまた不安そうに状況を静観しています。
ベルティルリントナー氏
中国は、ミャンマー国内の特定の地域を併合したいとは考えてはいないでしょう。それは中国が影響力を行使し、勢力圏を拡大する方法とは異なるからです。実は、中国が現在ミャンマーで行っている計画は、「一帯一路構想」よりも前のものです。
80年代には、ミャンマーを通って雲南省からインド洋に至る陸海空に目を向けており、その開発計画について議論を重ねていました。もちろん、それは干渉であり、単なる援助ではありません。中国は、善意からこのようなことをしているのではなく、中国-ミャンマー間の経済回廊を支配することで、経済的、政治的、そして戦略的な利益を得ているのです。そして中国は、今後もこのことを継続していくでしょう。
EAOを見てみると、常に覚えておかなければならないのは、ミャンマーは国境を越えて中国から得られるものが多くあり、非常に依存しているため、中国なしには存続できないということは覚えておく必要はあります。
ただ必ずしも親中派でなくてはならないのではなく、まずそういうことは切り離して考えてみましょう。
カチン族は、そうではないことは既に分かっています。彼らはキリスト教徒であり、中国から信頼されていません。故に中国は彼らには武器を与えず、カチン族は他から武器を調達しています。ワ族も中国の支配を快く思っていません。彼らは独立心が旺盛な人たちですから、1950年代に中国の中央当局がワ族をどのように扱ったかを彼らは知っていて、それを未だに忘れてはいないのです。
アウンゾー氏:
中国は信用されていないということは分かりました。ただ今日では、中国政府はミャンマーの軍事政権を支持し、支援しているよう見えますが、ミャンマー国民はこの政権を嫌いひどく嫌い、軽蔑しています。昨年は、ヤンゴンや他の都市で反中デモが起き、中国の工場が襲撃されました。それから今年や昨年でも、現地の武装集団、反対派が中国企業や国内のガスパイプライン、銅山に対して脅しをかけているとと聞きました。中国もまた、一部の野党議員や亡命中のNUG(国民統一政府)に対して、国益や中国企業の保護を訴えています。そして、中国側も政権に対して、ミャンマーにおける中国の利益と中国のビジネスに対する保護を目的に何としても自国の利益を守るよう呼び掛けています。
ベルティルリントナー氏
中国が国民統一政府や武装勢力と「党対党」ベースで対話を始めたことで、中国がこの件にどう対処しているかがよくわかりますね。しかし、彼らの長期的な戦略的関心は変わりませんし、インド洋への出口である海への回廊があります。そのため、特定のグループと敵対することは許されない訳です。
SLORC(国家法秩序回復評議会)の時代、中国は全ての卵を一つのカゴに入れ、軍だけを支援を行いました。もちろん、EAOの一部とは連携していましたが、それとは若干異なります。しかし、そこでもある程度の柔軟性を示し、NLDの設立当初でさえ、敵対することは避けていました。そのことを反映するような不思議で一風変わった逸話があります。
1988年の蜂起後、大学通りにあるアウンサンスーチー氏の住居に活動家、医者、弁護士、政治家、ジャーナリストなどありとあらゆる人たちが集まったのです。欧米の大使館職員もスーチー氏やNLDの指導者らに会いに行ったのです。ただ中国の外交官は、会いにはいきませんでした。アウンサンスーチー氏の亡き夫であるマイケルアリス氏が教えてくれたのですが、
ご存じの通り、彼はもう亡くなっていますが、ただ私がこの話をするのを彼が嫌がるとは思えませんよ。
その時、彼はもちろん大学通りの家にいました。中国の外交官は、スーチー氏に話をしに来ることありませんでしたが、ある日、中国大使館の外交ナンバーを付けた車が大学通りに入ってくるのを集まった人たちが目撃したそうです。みんな驚いていましたよ。
それから大使館の若手職員がチベット仏教に関するチベット語の本がいっぱいに詰まった大きな箱を持ってやって来たのです。
つまりそれは「私たちは注意深く行動を取りますが、まあ、敵視しないでくださいよ」という彼らなりの間接的なメッセージだったのです。それはスーチー氏に対してではなく、彼女の夫に対してです。ちなみにこれは、チベット仏教の話です。
しかし、誰もが当時でさえ、中国人はあのような振る舞い方をある程度はするんだということを示したのだと思います。軍事政権が存続するかどうかなんて分かりませんでしたし、将来はどうなるんだろうと、皆考えていました。繰り返しになりますが、中国の長期的な利益は変わりませんし、それに応じて様々な駆け引きをしているんです。その結果、このようになるのです。
アウンゾー氏:
しかし、SLORC-SPDC(国家平和開発評議会)が政権を奪還して以来この30年間、ミャンマー北部で中国による大規模な天然資源の搾取を目の当たりにしてきました。
ベルティルリントナー氏
はい、スズとレアアースがワ州で取られています。中国のレアアースメタル輸出の話をするときは、半分は本当ですが、実はその多くがワ・ヒルズ産なのです。
中国人はカチン州にもレアアース鉱山を2つ持っていますが、もちろん、こうした資源を輸出することでKIO、KIA、UWSA(カチン独立機構、カチン独立軍、ワ州連合軍)などの武装集団が組織を維持し、さらに武器を手に入れ、それぞれの地域で活動することが可能になるのです。とは言ってもやはり、ある意味、相互依存しているんです。
しかし、もしミャンマーの中央政府がワ族のような人々に対してより賢明な対応を取れば、この問題は解決すると私は考えています。中国に完全に依存するよりもミャンマーと一緒にいる方が幸せだと思うのです。ただ目下のところ、彼らにとって麻薬の密売人やその他諸々を見放すのはとても簡単です。というのも彼らはかつて麻薬の取引をしていたからです。それは間違いないでしょう。
ただ現在、彼らの収入源はより多様化しており、たとえ麻薬から収益を得ていたとしても、ミャンマーでそれをしなかった人はいないでしょうね(政府も含めて)。
アウンゾー氏:
昨年、ある中国の特使がクーデター後、ミャンマーを2度訪問しました。同使は、クーデターの指導者であるミンアウンフライン国軍総司令官に対し、拘束されているアウンサンスーチー国家顧問との面会を許可するよう求めたと報じられています。ただその許可が認められず、また、中国がミャンマー人に国民民主連盟を解散させないように言ったというニュースも耳にしました。
他の西側諸国や西側政府と比べて、中国がミャンマーに対して政治的な影響力を持っているとお考えですか?
ベルティルリントナー氏
前にもお話しましたが、ミャンマー軍はかなり外国人嫌いなんですよ。彼らはCPBと長きにわたって繰り広げた苦しい戦いを忘れてはいませんから。多くの兵士が中国製の銃で殺され、彼らの部下も殺されました。
ある退役将校が、それは心に残る傷のようなものだと言っていました。彼らはそれを忘れることができないのです。そしてもちろん、88年のクーデター後は、まずは軍隊を再建し強化する必要があったのです。当時は、何でも売ってくれるのは中国だけでしたが、中国への依存度が高くなってしまったため、その過度な依存度は避けるため、代替手段を探さなければならなくなったのです。そこで彼らが目を向けたのが、ロシアでした。もちろん、しばらくはうまくいっていましたが、今ウクライナで起きていることを考えると、そう長くは続かないでしょう。だから、彼らは非常に不本意ながら中国側に戻ってきたわけですが、中国側はそれをどう扱いたいのかは分かりません。そして、彼らもまた、このことを特に喜んでいるわけではありませんし、もちろん中国もそれを知っています。
軍が彼らを嫌っていることも、信頼していないことも知っているのです。しかし、実際には、ミンアウンフライン氏よりもアウンサンスーチー氏の方が扱いやすいと考えたのでしょう。
ですから、2015年の選挙前には、中国がUSDPではなくNLDの勝利を望んでいるという報道もあったほどです。皆から恨まれるような軍政よりもその方がもう少し、当時の国に安定感を与えられるがその理由ですし、中国は、このように様々な駆け引きを同時に行っているのです。つまり大きな絵を見て、傾向を見定め、それがどこにつながるかを見極めることが非常に重要になってきます。ある特定勢力やグループとだけ取り決めをしているわけではありません。ですから、中国のミャンマー・ビルマに対する政策は、より思想的な動機づけが強い欧米諸国のものとは非常に異なっています。
アウンゾー氏:
間違いなく、軍人を含むミャンマー人は中国恐怖症です。ミャンマー人は一般的に親西欧派で、親中派で
はありません。過去数十年間、米国がミャンマーに政治的な投資を行い、ミャンマーの民主化、人権、報
道の自由を促進してきたことはご存じでしょう。最近、米国がNUGの外相をワシントンDCに招き、米国・ASEAN首脳会議が
開催されました。米国-中国間には間違いなく抗衡が存在していました。つまり、ライバル関係ということですが、
この冷戦の考え方がASEANを含むインド太平洋地域にも入ってきているのです。
ミャンマーに対してもまた、アメリカと中国が影響力を持とうとしている国のひとつですが、
それについてはどうお考えですか?
ベルティルリントナー氏
アメリカがもっと影響力を持とうと思えば、今以上に積極的になることも必要となるでしょ
う。
アウンゾー氏:
ウクライナで起きているような事ですか?
ベルティルリントナー氏
ウクライナに送っているような武器を全部送るわけではないのでしょうけど、もしかした
ら、別の方法があるかもしれません。
しかし、アメリカの外交政策において、ミャンマーが後回しにされていることは確かです。
それよりもウクライナやヨーロッパで起こっていることのほうに夢中になっているので、
もちろん、中国への道は大きく開かれています。
アウンゾー氏:
私が覚えているのは、2007年から2008年にかけてアメリカの政策は非常に一貫していて、
ミャンマーの関係者、あらゆる関係者や勢力と非常に積極的に関わっていたことが印象的だ
ったと思います。
ベルティルリントナー氏
アメリカやワシントンのミャンマー政策を見ると、2015年のNLDの選挙勝利より前の話です
が、全ての関係者を巻き込んでいました。テインセイン氏の時も、彼はホワイトハウスに招
待されましたが、その時、中国人は「我々はミャンマーを西側に奪われた」と感じていたと
思いますし、翻訳された中国の学術誌の記事でその内容を見たことがあります。
それが中国側の気持ちだったのです。
そのため、ミャンマーで再び影響力を確立する必要が生じ、実に巧妙にそれを実行したので
す。ミャンマーでは、中国は政府に対してだけでなく、いわゆる「利害関係者」(私はこの
言葉があまり好きではありませんが)にも働きかけを始めたのです。
例を挙げると、メディアを巻き込み始めるというような事です。しかし中国はこれまではこ
のようなことはしたことがなかったため、中国にジャーナリストを招き、ジャーナリストと
対話を始めたのです。
ヤンゴンの大使は、ジャーナリストが電話をかけると突然出てきて、様々な党に話を聞きに
行ったそうです。ただ、あくまでもアメリカの影響力の広がりに対抗するためですが。
経済面での投資などでは、アメリカよりずっと強かったのは確かですが、人対人の関係とな
ると当時はアメリカに大きく遅れをとっていました。
そこで、ミャンマーの一般市民とより良い関係を築こうと考えたのです。
成功したのかどうかはよくわかりませんが、成功したとは思いません。でも少なくとも彼ら
は努力したし、
それが重要であることを理解していました。当時、一部の学者が言っていたように、ミャン
マーを欧米に「奪われる」わけにはいかなかったのです。
アウンゾー氏:
気になっていることがあるのですが、アウンサンスーチー氏には、まだ将来的な役割がある
とお考えですか?彼女は現在77歳ですが。
ベルティルリントナー氏
いや、彼女は自分の仕事をやり遂げた点においては、ミャンマーの人々にとって多くの意味
がありました。スーチー氏が果たした役割は誰にも否定できませんが、彼女も高齢となり、
以前と比べ積極性に欠けてきています。
多くの若者は、スーチー氏はもっと別の方法で物事を対処することができたのではないかと
考えているため、彼女に対して批判的です。
KAZ氏
間違いだったと?
ベルティルリントナー氏
はい、その通りです。ですから、次の世代を待つしかないでしょう。次の世代というのは、
ミャンマーの人々にとっても、
他のグループにとっても同じことが言えますが、民族の指導者の多くも過去から抜け
出せないでいます。古い視点や古い考え方など、どうやって前に進めばいいのかわからない
のです。
アウンゾー氏:
最後の質問ですが、どの国でも、行政権と立法府のバランスという観点から、強力な軍隊を
文民統制下に置かない限り、
民主主義への移行は停滞してしまいます。民主主義というのは、兵士が国家の主権者ではな
く、国家に仕える者である場合にのみ存在しますが、ミャンマー軍はそれとは異なります。
ミャンマー軍が国家に仕えるという役割を引き受ける可能性は低く、
またミャンマー軍は無期限に政権を維持する意図があるが故に、そうなるまではミャンマー
の民主主義の予後は良くはならないと考えています。
ベルティルリントナー氏
それが彼らの望みなのです。しかし、1962年に初めて軍が権力を掌握した時のことも忘れて
はいけません。
当時はいわゆる第三世界と呼ばれ、世界中で軍によるクーデターが起こっていた時代でし
た。タイではクーデターが起こり、その数年後にはインドネシア、アフリカ、中南米などで
混乱が起きていました。
しかし、ほとんどの国で、軍は政治権力を掌握することに満足し、経済を動かす経済的な権
力を他の利害関係者に委ねてしまったのです。例えばタイでは、経済を動かすという点にお
いて、軍とシノタイの富裕層が便宜上併合した結果、タイは、大いに繁栄しました。
インドネシアもそうですし、他国でも同じようなことがありました。
しかし1962年のビルマでのクーデターで異なっていたのは、軍が政治的権力だけでなく経済
的権力も掌握したことです。
その経済力とは、彼らが「ビルマ式社会主義」と呼ばれるものですが、国有化されたもの
は、全て軍の管理下に置かれることに
なり、1988年以降に新しい経済改革を導入した時でさえ、軍は依然として強力な役割を担っ
ていました。
そして、いわゆる取り巻き関係者は、完全に軍の支援に依存していました。ただそういった
取り巻き関係者と軍との関係は、
タイの大企業と政府、タイの軍との関係性とは同類ではありません。ここでは、互いが自身
のことを運営するような形を取っており、皆がそこから恩恵を受けているのです。
軍は今でも取り巻き関係者を探していますが、国の発展を願うのであれば、そんなことはで
きないでしょう。
ミャンマーの権力構造は、私が知る限り、他のどの国とも大きく異なっており、経済的、政
治的な権力を握っているのは軍で、全てを支配しようとしています。仮にそれを打破できた
としても、率直に申し上げて、それがどのように機能するかはわかりませんが、それは軍の
内部からしか起こりえません。
問題は、もし軍内で深刻な分裂が起これば、単なる離反ではなく、非常に血生臭い内戦がお
こる恐れがあるということです。
(2022年7月2日 イラワディよりJMSA翻訳)